こどもの病気
よくある症状
こどもの感染症 風邪+α
RSウイルス感染症
RSウイルス感染症は、乳幼児を中心に毎年流行する呼吸器の感染症で、多くは鼻水や咳程度の軽い風邪のような症状で自然に治りますが、特に生後6か月未満の赤ちゃんでは重症化し、人工呼吸器管理を要することもあるため注意が必要です。ゼーゼーという喘鳴が出ることもあります。細気管支炎に進行したり、肺炎や中耳炎を合併したりすることもあります。
兄弟からや保育園などでうつることも多いため、手洗いや消毒、感染者との接触を避けるなどの予防が大切です。
迅速検査で診断することができますが、検査の保険適応は1歳未満もしくは入院を要する重症例に限られます。治療は特効薬がなく、症状をやわらげる対症療法が中心となります。哺乳量が減っていたり、呼吸が苦しそうだったりする場合には早めの受診をおすすめします。
未熟児で生まれた子や基礎疾患のある重症化リスクの高いお子さんには、医師の判断で予防注射(シナジス・ベイフォータス)を行うこともあります。また妊婦さんに投与することで、出生後の赤ちゃんをRSウイルスから守るワクチンもあります。
ヒトメタニューモウイルス感染症
ヒトメタニューモウイルスは、RSウイルスに似た症状を引き起こす呼吸器ウイルスの一種で、主に乳幼児や小児を中心に感染が広がります。発熱、鼻水、咳など風邪に似た症状で始まり、ゼーゼーとした喘鳴や呼吸困難などがみられることもあります。多くは軽症で自然に回復しますが、肺炎や細気管支炎に進行することもあり、小さいお子さんや基礎疾患のある方では注意が必要です。感染経路は飛沫や接触で、保育園など集団生活の場で広がりやすい特徴があります。
鼻咽頭ぬぐいによる迅速検査で診断することが可能なウイルスです。検査は6歳未満の肺炎が疑われる方が保険適応となります。現在のところ特効薬やワクチンはなく、治療は対症療法が中心です。呼吸が苦しそう、哺乳量が減っている、元気がないといった様子が見られた場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
コロナウイルス感染症
大きく分けて「季節性コロナウイルス(いわゆる旧型)」と、「新型コロナウイルス(COVID-19)」の2つがあります。季節性コロナウイルスは昔から存在しており、風邪の原因ウイルスのひとつとして知られています。一方、新型コロナウイルスは2019年末から流行し、世界的なパンデミックを引き起こしました。
新型コロナウイルスは、迅速抗原検査やPCRなどで診断が可能であり、現在は小児科でも必要に応じて検査が行われています。これに対して、季節性コロナウイルスは症状が軽く、通常は詳しい検査を行うことは少なく、核酸増幅検査などの特殊な検査でのみ区別されます。 いずれのコロナウイルスも、発熱・咳・鼻水・のどの痛みなど、いわゆる「風邪症状」を引き起こしますが、新型コロナウイルスでは、特に初感染時に発熱が高く出たり、倦怠感や咽頭痛が強く現れたりすることがあります。まれに下痢や嘔吐などの消化器症状を伴うこともあります。
現在、新型コロナウイルスは重症化率が低下しており、子どもでは多くの場合軽症で済みますが、基礎疾患がある場合や高熱が続く場合は注意が必要です。また、一部のケースでは「小児多系統炎症性症候群(MIS-C)」のような合併症が報告されているため、症状が長引いたり強くなったりした場合には早めの受診をおすすめします。
ほとんどの小児では軽症の経過をたどるため、特別な治療薬は不要で、対症療法(解熱剤、安静、水分補給など)が中心になります。
新型コロナウイル特異的な治療薬(成人または重症例に使用)として、
ラゲブリオ(モルヌピラビル、経口薬、18歳未満には原則使用できません)
パキロビッド(ニルマトレルビル・リトナビル、重症化リスクの高い12歳以上の患者に使用可能、体重などの条件あり(40kg以上))
レムデシビル(点滴薬、入院患者向け(中等症〜重症)、小児にも使用可能)などがあります。
マイコプラズマ感染症
マイコプラズマ感染症は、「マイコプラズマ・ニューモニエ」という細菌に似た微生物によって引き起こされる呼吸器感染症で、特に学童期の子どもを中心に流行します。年齢にかかわらず感染しますが、4〜14歳ごろに多く見られ、保育園や学校など集団生活の場で広がる傾向があります。
症状は、発熱、倦怠感などから始まり、次第に乾いた咳(痰の少ない咳)が強くなっていきます。咳はしつこく、熱が下がった後もしばらく続くことがあり、「頑固な咳が続く風邪」として受診されることも多いです。多くの場合は軽症で済みますが、肺炎に進行したり、発熱が長期間続いたりすることもあります、比較的体格の大きい小児でも入院治療を必要とする場合もあります。
診断は、症状や聴診所見に加え、血液検査や迅速抗原検査、PCR検査などを組み合わせて行われます。
治療には、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)が一般的に使われます。ただし、近年ではこれらの薬が効きにくい「耐性マイコプラズマ」が増加しており、場合によっては別の種類の抗菌薬(ミノマイシン:テトラサイクリン系、トスフロキサシン:ニューキノロン系など)への切り替えが検討されることもあります。ミノマイシンは低年齢の児に対し歯牙の色素沈着の副作用があり、トスフロキサシンは関節障害や腎機能障害が懸念される薬剤であり慎重な選択が必要です。
百日咳(ひゃくにちぜき)
百日咳は、「ボルデテラ・パータスイス」という細菌によって引き起こされる呼吸器の感染症です。特に乳幼児にとっては重症化するリスクが高く、注意が必要な病気です。名前の通り、咳が長く続くのが特徴です。初期は普通の風邪のように、軽い咳や鼻水、微熱などから始まります。しかし数日〜1週間ほどで症状が進行し、連続して咳き込んだ(スタッカート)後にヒューッと息を吸い込む(whoop、笛声)が聞こえる特徴的な咳発作が見られるようになります。乳児では咳に伴って顔が赤くなったり、嘔吐したり、無呼吸になることもあり、赤ちゃんでは命に関わることもあります。5種混合ワクチンに含まれており、2か月になってから接種可能なので早めに行いましょう。診断は、症状や流行状況に加え、迅速検査などにより行われます。治療にはマクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)が使われますが、発症早期に開始しないと十分な効果はありません。学校保健安全法により「出席停止」扱いの感染症であり、登園・登校の再開には医師の判断が必要です。
ここ最近流行の兆しもあり、年長児における三種混合ワクチンの接種(自費)も推奨されています。
インフルエンザ
つらい発熱を引き起こす代表的なウイルスです。以前は冬季に流行する季節性が見られましたが、コロナ禍以降暖かい時期にも散発しています。A型、B型など複数の型が流行するため、同じシーズンに何回もインフルエンザにかかる方もいます。
症状:高熱、関節痛、倦怠感など
検査:迅速検査が可能です
治療:自然軽快することも多いため、抗インフルエンザ薬は必須ではありません。
- タミフル(カプセル/顆粒、5日間)
- リレンザ(吸入、5日間)
- イナビル(吸入、5日間)
- ゾフルーザ(錠剤/顆粒、1回)
- ラピアクタ(点滴)
タミフルなどによる異常行動(ベランダから飛び降りるなど)が報告されたこともありますが、現時点ではタミフルなど治療薬による影響と判断する根拠に乏しく、インフルエンザそのものによる脳・行動異常への影響が考えられています。
咽頭炎・扁桃炎
溶連菌感染症
溶連菌(ようれんきん)感染症は、正式には「A群溶血性連鎖球菌」と呼ばれる細菌による感染症で、特に子どもに多く見られます。のどに感染して咽頭炎を起こすことが多く、突然のどを強く痛がったり、発熱(38~39℃)を伴ったりすることが特徴です。咳や鼻水は出ないことが多く、風邪とは少し症状が異なります。
他にも、舌にぶつぶつができる「いちご舌」、体に赤い細かい発疹が出る場合、頭痛や腹痛、吐き気を伴うこともあります。
診断には、専用の迅速検査キットでのどを綿棒でこすり、数分で結果が出る検査を行います。当院でもその場で検査・診断が可能です。
治療には抗生物質が有効で、一般的にはペニシリン系やセフェム系の薬が使われます。大切なのは、症状が軽くなっても処方された薬を最後まできちんと飲み切ることです。まれにリウマチ熱といった合併症を引き起こすことが知られており、抗菌薬をのみ切ることで予防が可能となります。他にも溶連菌感染後の腎炎を合併することもあり注意が必要です。(腎炎について、現時点では抗菌薬による予防効果は実証されていません)
登園・登校の再開は、抗生物質を飲み始めてから24時間以上経過し、熱が下がって元気であれば可能です。「のどの痛みだけ」「高熱だけど咳がない」といった症状がある場合や、園・学校で流行しているようなときは、早めの受診をおすすめします。
アデノウイルス感染症
アデノウイルス感染症は、子どもに多く見られるウイルス感染症で、「プール熱(咽頭結膜熱)」として知られるタイプをはじめ、発熱・のどの痛み・目の充血・下痢など、症状がウイルスの型によってさまざまに現れます。アデノウイルスの型(タイプ)は100以上あるとされています。
1年を通じて見られますが、夏に多くなる傾向があり、保育園や学校など集団生活の場で広がりやすい感染症です。
症状の代表例として、38〜40℃の高熱が3〜5日ほど続くことが多く、のどの痛み(咽頭炎)や結膜炎(白目の充血・目やに)がよく見られます。また、型によっては下痢や腹痛などの胃腸炎症状もきたしますし、気管支炎や肺炎を起こすこともあります。いわゆる「風邪」と少し異なる点として、長引く高熱や、目の症状が目立つのが特徴です。
アデノウイルスは、飛沫感染(せき・くしゃみ)や接触感染(手すり・タオルなど)でうつります。咽頭結膜熱や流行性角結膜炎は感染力も強く園や学校での集団感染につながることがあります。目やになどからもウイルスが排出されるため、タオルの共用は避け、こまめな手洗いが重要です。
現在のところ、アデノウイルスに対する特効薬はありません。症状に合わせた対症療法(解熱剤、点眼薬、整腸剤など)で回復を待ちます。自宅での安静と十分な水分補給が大切です。
登園・登校については、「プール熱(咽頭結膜熱)」と診断された場合、学校保健安全法により「主要症状がすべて消えてから2日間」は出席停止となります。診断書や登園許可証が必要な園もありますので、医師の判断に従ってください。 咽頭痛であれば喉の迅速検査(アデノウイルス抗原検出)、胃腸炎であれば便の迅速検査が可能です。目やにや充血などに対し、眼瞼での迅速検査を行う場合もありますが検出率・精度が十分ではありません。
ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナは、主に夏に流行するウイルス性の咽頭炎で、乳幼児~小学校低学年くらいの子どもに多く見られます。コクサッキーウイルスA群が主な原因で、「夏かぜ」の代表的な疾患の一つです。
突然の高熱(38~40℃)ではじまり、のどの奥(口蓋垂・扁桃周囲)に小さな水ぶくれ(水疱)や潰瘍ができ、時に強い喉の痛みを訴えます。発熱は1~3日程度で下がることが多いですが、のどの痛みで食事や水分が摂れず、ぐったりしてしまうことがあります。食事摂取が十分でない場合は点滴を行います。
原因となるウイルスには特効薬がなく、治療は対症療法(解熱剤や口腔ケアなど)が中心です。水分をこまめに摂らせ、食事は無理をせず、ゼリーやアイスなど刺激の少ないものを選ぶとよいでしょう。
また、ウイルスは飛沫感染・接触感染で広がります。発熱や口内の症状がある間は感染力が高く、解熱後も数日間は便などからウイルスが排出され続けます。
登園・登校の再開時期については、発熱やのどの痛みなどの症状が改善し、食事や活動が普段通りにできるようになれば登園可能とされます。
手足口病
手足口病は、乳幼児を中心に夏季に流行しやすいウイルス感染症で、名前の通り「手のひら」「足の裏」「口の中」に水ぶくれのような発疹が現れるのが特徴です。主な原因ウイルスはコクサッキーウイルスA型やエンテロウイルス71型などです。
最初に37〜39℃程度の発熱が見られ、その後、手足の発疹や**口内の痛みを伴う発疹(口内炎)**が現れます。発疹は痛がらないこともありますが、口の中の水疱は痛みが強く、飲食を嫌がる子も多く見られます。中には、口の痛みだけで発熱や発疹が目立たないケースもあります。
ウイルスには特効薬がなく、治療は症状に応じた対症療法(解熱剤、痛みが強ければ口腔ケアなど)が中心です。食事や水分がとれないと脱水のリスクがあるため、こまめな水分補給が大切です。のどが痛む時は、ゼリーや冷たい飲み物など刺激の少ないものを選びましょう。
感染経路は飛沫感染、接触感染、便からの感染です。発熱・発疹などの症状が治まっても、便中には1カ月程度ウイルスが排出されることがあり、家庭内感染や園での流行の原因になります。特におむつ交換後の手洗いを丁寧に行うことが大切です。
登園・登校の再開は、発熱や口の痛みが治まり、食事や活動が普段通りできれば可能です。
夏風邪は時に熱性けいれんなど、重い症状を引き起こすこともあります。気になる症状があれば早めに受診してください。
伝染性単核症
伝染性単核症(でんせんせいたんかくしょう)は、主に**エプスタイン・バールウイルス(EBウイルス)**によって引き起こされる感染症で、10代の思春期の子どもや若年成人に多く見られますが、幼児期にも感染することがあります。
主な症状は、発熱・のどの痛み・首のリンパの腫れの3つが代表的で、いわゆる「風邪」と似ています。ただし、発熱が長引く(1週間以上)、扁桃が白く腫れて痛みが強い、リンパ節や肝臓・脾臓の腫れが見られるのが特徴です。重い場合は全身倦怠感や黄疸、発疹が出ることもあります。
感染経路は、唾液を介した接触感染で、「キス病(kissing disease)」とも呼ばれます。乳幼児では、家族からの唾液による間接的な感染が多く、年齢が高くなるにつれて口腔内接触による感染が主になります。
診断は、血液検査で**白血球の異常(異型リンパ球)**や、EBウイルスの抗体検査で確定されます。インフルエンザや溶連菌、アデノウイルスなどと症状が似ており、鑑別が必要です。
ウイルスに対する特効薬はなく、治療は基本的に対症療法(解熱・鎮痛・安静)となります。抗生物質は無効で、誤って投与されると発疹が出ることもあります。年齢が高い場合や成人においては肝腫大による腹痛が強く出る場合もあります。肝臓・脾臓が腫れることがあるため、強い運動は避ける必要があります(破裂のリスクがあるため)。
登園・登校の目安は、全身状態が回復し、発熱や強い倦怠感がなくなった後となります。本人の体調を見ながら無理のない範囲で復帰しましょう。
多くの場合、自然に回復しますが、症状が長引く、強いのどの痛みやだるさが続く場合は早めに医師の診察を受けてください。
発疹のでる病気
突発性発疹
突発性発疹は、生後6か月から1歳半くらいの赤ちゃんに多く見られるウイルス感染症です。原因はヒトヘルペスウイルス6型または7型で、多くの子どもが1歳半頃までに一度はかかります。
この病気の特徴は、まず突然38〜40℃の高熱が出て、3~4日ほど続いたあと、熱が下がった頃に赤い発疹が全身に広がるという経過です。発疹はお腹や背中を中心に、顔や手足にまで出ることもありますが、かゆみや痛みはほとんどなく、数日で自然に消えます。まれに熱性けいれんを起こすこともあります。
熱が下がってから発疹が出るため、熱だけの段階では他の感染症(中耳炎、尿路感染など)との区別が難しいことがあります。
発疹がでるころに不機嫌が強くなり泣いてばかりいたり食事ミルクを受け付けないこともありますが自然に軽快します。便が少しゆるくなることもあります。
治療は特別な薬を使う必要はなく、熱に応じて解熱剤を使うなどの対症療法が中心です。
登園や外出は、熱が下がって元気が戻っていれば可能です。 赤ちゃんに急な高熱が出たときは突発性発疹の可能性もありますが、他の病気との見分けがつきにくいため、心配な場合は受診・相談しましょう。
水痘(みずぼうそう)
水ぼうそう(水痘)は、水痘・帯状疱疹ウイルスによって起こる感染症で、子どもに多く見られます。体や顔、頭などに赤い発疹が出て、水ぶくれになり、やがてかさぶたになります。かゆみが強く、発熱を伴うこともあります。感染力が非常に強く、くしゃみやせきなどの飛沫、触れた手やおもちゃなどからもうつることがあり、空気感染することもあります。感染してから症状が出るまでの潜伏期間は約2週間で、周囲に気づかれにくいままうつってしまうこともあります。
症状が落ち着くまでは自宅で安静に過ごす必要があり、登園や登校はすべての発疹がかさぶたになるまでお休みします。治るまでに1週間ほどかかることが多いです。特別な治療を必要としないこともありますが、症状が重かったり、年齢が低かったりすると抗ウイルス薬が使われることもあります。
水ぼうそうにはワクチンがあります。1歳を過ぎたら定期接種として無料で受けることができ、2回接種することで高い予防効果が得られます。まだかかっていないお子さんやごきょうだいがいる場合は、早めの接種をおすすめします。
水いぼ(伝染性軟属腫)
水いぼは、「伝染性軟属腫ウイルス(ポックスウイルスの一種)」によってできる、肌にできる小さなプクっとしたいぼです。
1〜5mmほどの白っぽくてつやのある丸いできもので、特に子どもに多く見られます。タオルの共有などでうつることがあります。
かゆみをともなうこともあり、かいてしまうと他の場所に広がることがあります。乾燥肌など、バリア機能が低下している肌にできやすいので、広がらないようにするためにも体全体の保湿も重要です。免疫がつくと自然に治ることがほとんどですが、治るまでに数ヶ月・1年以上かかることもあります。
治療法としては、いぼをピンセットで取り除く方法(摘除)や、M-BFクリームなどの塗り薬を使って徐々に小さくする方法などがあります。数が少なく、処置に伴う痛みが我慢できるお子さんであれば摘除が確実で速効性のある治療となります。痛みに配慮した治療や、経過観察を選ぶ場合もありますので、お子さんの様子や保護者の希望に合わせてご相談ください。
プールには基本的に入っても問題ありませんが、タオルや浮き輪の共用は避けてください。
とびひ(伝染性膿痂疹)
とびひは、正式には「伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)」といい、子どもに多く見られる皮膚の感染症です。すり傷などをかいたところに細菌が入り込んで感染します。黄色ブドウ球菌や溶連菌などが原因になることが多いです。
症状としては、赤くただれたような皮膚の発疹が出て、かゆみが強く、じゅくじゅくしたり水ぶくれが破れて広がったりします。顔や手足、体など、どこにでもできることがあります。手でかくと菌がついた手を通じて別の場所に広がり、短時間で広範囲に広がることがあります。
治療は、感染の原因となっている細菌に対して有効な抗生物質の飲み薬や塗り薬を使うことが中心です。かきこわしを防ぐために、爪を短く切り、清潔を保つことが大切です。
とびひが広範囲に広がっている場合や、発熱がある場合は、早めの受診がおすすめです。
腸炎・胃腸炎
ロタウイルス
ロタウイルス感染症は、乳幼児に多く見られる激しい胃腸炎のひとつです。
主に5歳以下の子どもに多く、特に1歳前後の赤ちゃんに重症化しやすいといわれています。ロタウイルスに感染すると、突然の嘔吐や38℃以上の発熱、白っぽい水のような下痢が始まります。症状が強いと、脱水症状になりやすく、点滴や入院が必要になることもあります。感染経路は、ウイルスがついた手やおもちゃなどを口に入れてしまうことによる「経口感染」が主で、とても感染力が強いウイルスです。
トイレやオムツ交換のあと、手をしっかり洗うことが予防の第一歩です。
現在は、ロタウイルスワクチン(ロタリックス・ロタテック)が定期接種に含まれており、生後2か月から接種が可能です。ワクチンによって重症化を防ぐことができるため、忘れずに接種しましょう。 治療はウイルスを直接やっつける薬はなく、脱水を防ぎながら自然に治るのを待つ対症療法が中心です。水分補給ができない、おしっこが出ない、元気がないなどの症状があるときは、早めに受診してください。
ノロウイルス
ノロウイルスは、冬を中心に流行する胃腸炎の原因ウイルスのひとつで、強い感染力が特徴です。感染すると突然の激しいおう吐や下痢、腹痛、発熱などの症状があらわれます。子どもは脱水症状を起こしやすいため、こまめな水分補給がとても大切です。
感染経路は、ウイルスが付着した手や食品を口に入れることで起こる経口感染や、嘔吐物・便からウイルスが空気中に飛び散ることで起こる飛沫感染があります。ご家庭内でもうつりやすいため、感染したお子さんがいる場合は、家族全員でしっかりとした手洗いや消毒を心がけることが重要です。
治療に特効薬はなく自然に回復するのを待つ対症療法が中心となります。水分がとれない、ぐったりしている、おしっこが出ないといった場合は、点滴などの治療が必要になることもあるため、早めの受診が安心です。
消毒にはアルコールではなく、塩素系の消毒剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)が有効です。嘔吐物の処理をする際は、使い捨ての手袋やマスクを使い、丁寧に拭き取りましょう。
登園や登校は、おう吐や下痢などの症状が完全に治まり、食事や水分がしっかりとれるようになってからが目安です。症状がなくなっても、しばらくの間は便の中にウイルスが含まれていることがありますので、トイレの後やおむつ替えのあとは特に丁寧な手洗いを心がけましょう。
病原性大腸菌感染症
病原性大腸菌感染は、汚染された水や食べ物を通じて感染する細菌性の胃腸炎で、特に子どもでは注意が必要な感染症のひとつです。原因となる大腸菌にはいくつかの種類があり、その中でもO157などの腸管出血性大腸菌は重い症状を起こすことがあります。
感染すると、腹痛、下痢、発熱などの症状があらわれ、血便を伴うこともあります。多くは自然に回復しますが、腸管出血性大腸菌の場合は、下痢発症から3~14日後に重症化して溶血性尿毒症症候群(HUS)という合併症を引き起こすことがあり、注意が必要です。抗菌薬を投与する場合はなるべく早期(発症3日以内)に行うことが勧められます。(ただし集団感染でもない限り、下痢のみであれば細菌検査は行わないうえに、検査による確定までに数日を要します)
小さなお子さんや高齢者では、時に症状が急に悪化することがあるため、血便や激しい腹痛があるときは早めに受診しましょう。
感染は主に口から入り、少量の菌でも発症するため、十分な手洗いや食品の加熱が予防につながります。調理前後やトイレのあとには石けんでしっかり手を洗い、生肉やサラダなどの取り扱いにも気をつけましょう。飲食店やイベントなどで集団発生することもあります。
中耳炎
急性中耳炎
中耳炎とは、鼓膜の奥にある「中耳」に炎症が起こる病気で、特に小さなお子さんに多く見られます。中耳炎には主に3つのタイプがあり、突然強い耳の痛みや発熱を伴う「急性中耳炎」、痛みが目立たないが中耳に液体がたまる「滲出性中耳炎」があります。
急性中耳炎は、風邪などで鼻や喉に感染が起きた後、ウイルスや細菌が耳管を通って中耳に侵入することで発症します。原因となる細菌には肺炎球菌やインフルエンザ菌などがあり、これらは普段から鼻や喉にいる常在菌です。特に子どもは耳管が短くて太いため、病原体が中耳に届きやすく、感染しやすい構造をしています。
症状としては、耳の痛みや発熱、機嫌が悪い、耳を触る、泣き止まない、夜中に目を覚ますなどが見られます。鼓膜が破れて耳だれが出ることもあります。
治療は症状の重さや年齢によって異なり、すべての場合に抗菌薬が必要なわけではありません。軽症の場合は、自然に治ることもあるため、経過観察を行うことがあります。一方、2歳未満の乳幼児や症状が強い場合には、抗菌薬の内服が必要です。使用される抗菌薬は、アモキシシリンなどが主流で、症状に応じて変更されることもあります。耳の痛みや熱に対しては、解熱鎮痛薬でつらさを和らげます。
中耳炎は繰り返すことも多い病気ですが、適切な治療と日常生活での鼻のケア、風邪予防などにより、再発を防ぐことができます。お子さんの様子で気になることがあれば、早めのご相談をおすすめします。
川崎病
川崎病とは
川崎病(かわさきびょう/Kawasaki disease:KD)は、1967年に日本の小児科医・川崎富作先生によって初めて報告された疾患で、発見者の名前にちなんで名づけられました。世界的にも "Kawasaki disease" として知られています。「MCLS(mucocutaneous lymph node syndrome/粘膜皮膚リンパ節症候群)」という名前でも呼ばれていました。これは、病気の主な症状である粘膜の変化(口唇や舌)、皮膚の発疹、リンパ節の腫れを表現した名称です。
あまり聞きなれない病気ですが、小児科医、特に病院で働いている勤務医にとっては入院でよく見る病気の一つです。原因はわかっていないのですが、時に流行して、病棟が川崎病の子でいっぱい、なんてこともあります。
川崎病はなるべく早く治してあげたい病気のひとつです。全身の中小血管に炎症を起こす「血管炎」の一種で、心臓の血管(冠動脈)に炎症が及ぶと、冠動脈瘤(血管のこぶ)ができてしまう可能性があります。これが将来の心臓病(心筋梗塞など)の原因になることもあるため、早期の診断と治療がとても重要です。
この病気は、主に5歳以下の乳幼児に発症しやすく、男の子の方がやや多い(男女比1.3~1.5:1)とされています。日本では世界で最も多くの川崎病患者が報告されており、年間約1万人以上の新規患者数があります。特に1歳前後の子どもに多く見られます。
原因は今も完全には解明されていませんが、ウイルスや細菌などの感染に対する免疫反応が過剰に働くこと、そして遺伝的な体質が関係している可能性があると考えられています。
実際に、川崎病にかかった子どもの兄弟が発症する確率は1.4%前後とされており、家族内での発症リスク(オッズ比)は約10倍にのぼるという報告もあります。これは、一般の子どもよりも明らかにリスクが高いことを示しています。
治療の進歩によって、川崎病による死亡は非常にまれになっており、現在の死亡率は0.01〜0.05%程度です。ほとんどの子どもが後遺症なく回復しますが、一部のケースでは冠動脈瘤が残ることがあり、長期的な心臓のフォローアップが必要になります。
川崎病の症状と診断
川崎病では、典型的に次の6つの主要症状のうち5つ以上が認められると診断が強く疑われます(すべて満たさなくても「不全型川崎病」として診断されることがあります)。
- 発熱:解熱剤でも下がらず持続します。不機嫌な状態が続きます。
- 両側眼球結膜の充血:眼の白目部分が赤くなりますが、目ヤニ(眼脂)は少ないか、ほとんど出ないのが特徴です。※鑑別:アデノウイルス結膜炎(結膜出血・目やにあり)、アレルギー性結膜炎(かゆみ・季節性)。
- 口唇の発赤・いちご舌:唇が乾燥して赤くなり、割れたり出血したりします。舌は赤くブツブツ(舌乳頭が浮き上がる)になり、いちごのような外観になります。※鑑別:溶連菌感染などでも出現。
- 手足のむくみ・発赤:急性期には手のひら・足の裏が赤く腫れ、熱感を持つことがあります。(テカテカパンパンと表現されることもあります。)回復期には指先から皮むけがみられることもあります。
- 発疹:形は不定形で、斑状・じんましん様・紅斑・丘疹・紅皮症様などさまざまなタイプがあり、「どんな発疹でも否定できない」とされるほど多彩です。体幹・四肢に出やすく、痒みはないことが多いです。BCG接種部位の発赤は川崎病に典型的とされています。
それでもBCGがうっすら赤くなったけど結果的に川崎病じゃなかった、症例もあります。
- 頚部リンパ節腫脹:首のリンパ節が腫れ、圧痛があります。エコー(超音波)所見では、リンパ節が“ブドウの房”のように集まって見えることが特徴です。
川崎病ではその他にも様々な症状がみられることがあります。機嫌が非常に悪い・不機嫌はよく見られます。下痢・嘔吐・腹痛、虫垂炎、関節の痛み・腫れ、胆嚢腫大、咳嗽、鼻汁、髄膜炎、けいれん、神経麻痺など、稀ですが非特異的な症状(普通の風邪や他の疾患とも重なる症状)もみられることがあります。
院長も川崎病の髄膜炎なのかグロブリンの副作用としての髄膜炎なのか困った経験もあります。
川崎病の検査
クリニックで可能な検査としては、白血球やCRP(炎症の数値)を調べることが可能です。川崎病が疑われた、または診断された場合はクリニックから病院へ紹介となります。病院ではこれらに加えて、肝機能、ナトリウムやアルブミン、凝固能の検査、心臓のマーカー(BNP、NT-proBNP)などを確認します。
診断はあくまでも症状に基づき行いますが、血液検査を確認することで、川崎病らしさの裏付けや、治療への反応予測が可能となります。
治療への反応予測には、群馬、久留米、大阪スコアなどがあり、発熱の日数や年齢に加え、白血球数(好中球数)、血小板数、肝機能、ビリルビン、ナトリウム、アルブミン、CRPなどを参考にします。
心エコー検査では、心臓の血管(冠動脈)に拡張や瘤がないかを確認します。冠動脈は1番から15番までありますが、瘤ができやすい右冠動脈起始部(1番)、左冠動脈起始部(5番)、左前下行枝近位部(6番)、左回旋枝(11番)などを観察し、性別や身長ごとの平均値との差(Zスコア)を確認します。その他心エコー検査では、川崎病で時々みられる僧帽弁逆流や心嚢水貯留の有無、心機能などを評価します。
乳幼児に多い病気で、高率で不機嫌な事が多く、心エコー検査はじっとしている必要があるためなかなか大変です。眠るお薬(トリクロリールシロップやエスクレ座薬)などを用いて検査することもしばしばあります。 またCT検査では咽頭後壁の浮腫がみられることがあります。年長児ほど発熱とリンパ節腫大だけでその他の川崎病の診断になかなか至らないケースもあります。そんなとき頸部リンパ節を評価する目的で行ったCT検査で咽頭後壁の浮腫から川崎病を疑ったりすることもあります。
川崎病の治療
川崎病の治療は、冠動脈瘤の形成を防ぐことを最も重要な目的としています。診断がついたら、できるだけ早期に治療を開始することで合併症のリスクを下げることができます。治療の中心となるのは免疫グロブリン(IVIG)療法です。多くの場合は約1日かけてグロブリンを点滴投与します。通常、発症から10日以内に投与し解熱を目指します。1回の投与で解熱し症状が改善するケースが多い一方、複数回のグロブリン投与や、その他の治療を必要とするケースも稀ではありません。
グロブリン治療と併用して使用されるのがアスピリンです。アスピリンには抗炎症作用と抗血小板作用があり、急性期には高用量で炎症を抑える目的で使用され、その後は低用量で血栓予防のために継続投与されます。冠動脈に異常がなければ、回復後に中止されることがほとんどです。
免疫グロブリン療法だけでは熱が下がらない場合や、一度下がったがすぐにまた熱が出てしまった場合では、さらなる治療が必要になります。グロブリン不応予測が高い場合は最初からグロブリンに加えてステロイド治療を併用することもあります。さらには、重症例やステロイドにも反応しない場合には、インフリキシマブ(商品名:レミケード)という生物学的製剤が用いられることがあります。また、極めてまれではありますが、すべての薬物療法が無効な重症例では血漿交換療法が検討されることもあります。これは血液から炎症を起こす物質や自己抗体などを除去する治療で、専門の医療機関で慎重に行われます。
このように川崎病の治療は、重症度や治療への反応に応じて段階的に選択肢が用意されており、早期発見・早期治療、治療への反応性の観察が非常に重要です。
熱性けいれん
熱性けいれんとは?
熱性けいれんとは、38℃以上の発熱に伴って起こるけいれんのことで、特に乳幼児に多くみられる発作の一種です。生後6か月~5歳くらいまでの子どもに最も多く、発熱をきっかけに急に体が硬直したり、手足をガクガクと震わせたり、意識を失ったりすることがあります。けいれんそのものは数十秒から数分でおさまり、その後は自然に回復することが多いのが特徴です。
けいれんと聞くと驚かれる保護者の方も多いですが、熱性けいれんは非常に一般的で、子どもの約10人に1人が経験するとされています。また、ほとんどの場合は後遺症を残さず、成長とともに自然に起きなくなっていきます。特別な病気や障害を意味するものではありません。多くのお子さんは1度きりですが、中には複数回熱性けいれんを起こしたことがある子や、熱の度に痙攣しやすい子もいます。 基本的には命にかかわることはなく、その後の発達にも影響はありませんが、けいれんの持続時間が長い、左右非対称な動き、発熱していないときにも起こる、1日に何度も繰り返すなどの場合は、熱性けいれん以外の病気(てんかん、髄膜炎、脳炎、脳症など)の可能性もあるため、医療機関での診察、抗けいれん薬の使用、観察目的での入院などが必要です。大事な事は「熱性けいれん」と、重篤な疾患による「熱+けいれん」を区別することです。短時間でけいれんがおさまり、痙攣後の意識がすっかり普段どおりであれば「熱性けいれん」の可能性がぐっと高まります
どんなとき・どんな人に起きやすい?
熱性けいれんは、主に発熱の急上昇時に起こりやすくどんな熱でも起こる可能性がありえます。なかでも中枢神経に影響しやすいウイルス、突発性発疹、夏風邪ウイルス、インフルエンザなど感染症が引き金になることが多いです。特に熱が出始めてすぐのタイミングでけいれんが起こることが多く、体温の高さそのものよりも「急な体温上昇」が発作のきっかけになると考えられています。「けいれんして測ってみたら高熱だった」ということもあります。
また、熱性けいれんを起こしやすい体質というものもあり、遺伝的な要因が大きく関わっています。家族に熱性けいれんを起こした人がいる場合、その子どもも発症しやすい傾向があると言われています。特に両親や兄弟姉妹に経験者がいると、リスクは2〜3倍になることがあります。
年齢的には、生後6か月から5歳の間が最も多く、その中でも1歳前後がピークです。年齢が上がるにつれて脳が成熟し、けいれんを起こしにくくなるため、就学前後には多くの子どもが自然と発作を起こさなくなります。5回も6回も熱性けいれんを起こしたことがある子が小学校へあがるころにはまったく起こさなくなった、という症例もよくあります。
けいれんが起きた時の対処法
お子さんがけいれんを起こすと、初めての経験では特に保護者の方は非常に驚き、恐怖を感じるかもしれません。しかし、落ち着いて対応することが大切です。まず行ってほしいのは、安全の確保です。周囲に硬いものやぶつかるものがないか確認し、子どもの体を横向きに寝かせましょう。嘔吐した場合に吐物が喉に詰まらないようにするためにも、顔は横を向けてください。
けいれんの持続時間を測ることも重要です。多くの熱性けいれんは2〜3分以内におさまりますが、5分以上続く場合は救急車を呼ぶ必要があります。可能であれば、スマートフォンで動画を撮影すると、医師が発作の様子を正確に把握するのに役立ちます。どんな痙攣だったかも観察します、両手両足だったか、つっぱる様子やガタガタ震える様子、目はどっちを向いていたかなどです。心配な場合は躊躇なく救急車をよび医療機関で診察を受けましょう。痙攣が続いているかどうかは医師でも判断が難しいことがあります。ギャーギャー大きな声で泣くことができれば痙攣は止まっているでしょう。
「5分」という目安は確定的なものではなく、5分以上続く場合は30分以上続く可能性もある、30分以上続いた場合は後遺症を心配する必要も出てくる、という考え方を元にしています。5分以上続く痙攣は抗けいれん薬で止めてあげる必要があるため救急車(自家用車では30分以上経ってしまうかも)での医療機関への受診をすすめます。
単純型と複雑型
熱性けいれんには大きく分けて「単純型」と「複雑型」の2種類があります。この分類は、けいれんの持続時間、回数、症状の左右差などによって決まります。
単純型熱性けいれんは、最も多いタイプで、けいれんが1回のみ、15分以内、全身が同じように震えるという特徴があります。多くは自然に治まり、予後も良好で、後遺症やてんかんへの移行もまれです。熱性けいれんを経験する子どもの約70〜80%がこの単純型です。
一方で、複雑型熱性けいれんは、以下のいずれかに該当する場合を指します:
1)焦点発作(部分発作) ⇔ 単純型では全身がガタガタ痙攣します
2)15分以上続く ⇔ 単純型では数分でおさまります。
3)同一発熱機会の反復する発作 ⇔ 単純型では1回のお熱で1回の痙攣です 複雑型は、稀に脳炎やてんかんなど、他の病気との鑑別が必要になることがあり、MRIや脳波などの追加検査が行われる場合もあります。ただし、複雑型だからといって必ず後遺症が残るわけではありません。症状や経過を見ながら、医師と一緒に適切な対応をしていくことが重要です。
てんかんとの違い
熱性けいれんとてんかんは、どちらも「けいれん発作」を起こしますが、その原因や性質は大きく異なります。熱性けいれんは、発熱をきっかけに起こる一時的な発作で、脳の発達段階にある乳幼児に多く見られる生理的な現象と考えられています。多くは成長とともに自然におさまります。
一方、てんかんは、脳にけいれんを起こしやすい「電気的な過活動」の傾向があり、発熱に関係なく発作が繰り返される病気です。てんかん発作は無熱で起こることが多く、睡眠中や突然の刺激によっても誘発されることがあります。また、てんかんは脳波に異常がみられることが多く、診断の際には脳波検査が用いられます。
熱性けいれんを起こした子どもでも、5〜10%程度は将来的にてんかんを発症する可能性があるとされています。特に複雑型熱性けいれんを繰り返す、家族にてんかんの既往がある、発達に遅れがあるなどのリスク要因がある場合は注意が必要です。気になる症状がある場合は、小児神経の専門医と相談するのが安心です。
その後の経過について
熱性けいれんを経験したお子さんの多くは、成長とともに発作が起こらなくなります。特に5〜6歳を過ぎる頃には脳が成熟し、熱に対する過敏な反応が自然に落ち着いていきます。後遺症を残すことは非常にまれで、知能の発達や日常生活に影響を及ぼすこともほとんどありません。
ただし、熱性けいれんを一度起こすと、約15%の子どもが再発するとされています。
再発のリスク因子として以下の4つがあり、いずれかを有すると再発の確立は2倍になります。
1)熱性けいれんの家族歴(家族、同胞)
2)若年発症(生後12か月未満)
3)発熱してから発作までが短い(1時間以内)
4)発作時の体温が高すぎない(39度以下)
熱性けいれんを繰り返すお子さんや、複雑型熱性けいれんの既往のあるお子さんにおいて、再発を予防するために、発熱時にけいれん予防薬(例:ダイアップ座薬)を使用することがあります。ただし、ぼーっとしてしまい痙攣後の意識障害との区別がつかない場合があるなど、すべての子どもに推奨されるものではありません。予防の有用性が十分高い場合に、医師が総合的に判断して処方します。
発作を経験されたことで不安になる保護者の方も多いと思いますが、熱性けいれんは一般的で予後のよいものです。不明点や不安がある場合は、いつでもご相談いただき、必要に応じて専門機関への紹介も行っております。